十津川、山の民

山の民の誇りを持ち、十津川村に生きる人々を紹介します。

Vol.15

2022.03.29

十津川の山と共に生き、林業を支え続ける。

弓場 耕一郎さん

十津川村で生まれ育つ。
長く山や木に関わる仕事へ従事し、
十津川林業を育ててきたパイオニア。

高品質の木材を、低コストで届けたい。

十津川村の山から工務店へ木を産地直送する「十津川郷土(さと)の家ネットワーク」。その立ち上げに携わった弓場さんは、十津川で生まれ、十津川で育ち、十津川で暮らしてきました。これまで山や木に関わるさまざまな仕事をご経験されてきた弓場さん。十津川村森林組合の常勤理事として勤務していた頃、役場からの声かけで郷土の家ネットワークの立ち上げに関わることになりました。
木材の流通は複雑で、伐採をしてから中間業者をいくつも挟んで消費者のもとへ届くのが通例。流通コストや品質管理の面で課題がありました。そこで、産地直送で流通コストを抑え、村内の一貫した管理で高い品質の確保を実現する、郷土の家ネットワークが立ち上がりました。「もともと木を扱う仕事はしていましたが、実際に家を建てるためにどのくらいの本数の木が必要だとか、伐採した木を乾燥させる技術だとか、わからないことが多く苦労はしました。だからこそ、最初の一軒が建ったときの嬉しさは覚えています。それからは、次から次へと来る依頼に、奔走する日々でした」

伐採から販売まで。一貫した管理で光る十津川の木材

木材の伐り出しから流通まで関わる中で、大きな課題となったのは木材加工の手間。当時、村内には工場が無く、木材の乾燥は三重県の工場で行うなど、各工程で木材を移動させる必要がありコストの増大が深刻でした。そこでできたのが十津川村森林組合の製材部門である木材加工流通センターです。「当時、木材の乾燥や加工に関わる知識はほとんど無かったので、初めは大変でした。木材は伐採後も生きているので繊細です。管理方法や期間を間違えて、木材がひび割れて使えなくなってしまう経験を何度も繰り返し、適切な管理方法を探していきました」
木材加工流通センターで木材と向き合う日々の中で、十津川の木の良さにも気がついたそうです。木材の強度を測ったところ、他の地域で育つ木よりも、強度が高いとのこと。高い強度という十津川の木の強みも、村内で行う一本一本の特性に合わせた緻密な品質管理によって維持することができ、工務店へ直送できます。製材から乾燥、加工までを行う木材加工流通センターと、産地から消費者へ直送する郷土の家ネットワーク。二つの誕生が、十津川村の林業の発展を大きく促しました。

後世へ引き継ぐため、山と向き合い続ける。

十津川村の林業で人の手が入っている山の多くは、村の南部。北部は個人の持山が多く、木を木材として伐り出して運ぶ作業費に手間とお金がかかるため、なかなか手を入れることができていないそうです。そこで、北部の山々にも人の手を入れ、後世へ継いでいくため、弓場さんは2020年4月に十津川村北部林業協議会を立ち上げました。北部に持山のある住民や役場の方々と一緒に、定期的に情報交換や方針の策定を行っています。協議会を立ち上げたことで、間伐などの山の管理、森林の境界明確化や集約化を効率的に行うことができるようになりました。活動には村の補助金を活用することもあり、国や県に加えて、村からも補助が出るのは大変ありがたいと言います。
そして、今はご自分の持山の管理に注力しているという弓場さん。山の手入れをせず木が密集してしまうと、日光が入りにくくなり草木が育たたず、水がそのまま流れて山の表面は削れていきます。今、自分が間伐をすることで、できるだけ手間やお金のかからない状態にして子どもの代へ引き継ぎたい。その一心で、弓場さんは山と向き合い続けます。「山の間伐は何十年もかけて行うので、猶予がありますがその分大変でもあります。全部タケノコになればいいのに」と笑う弓場さんの表情は木への、山への、そして十津川村への愛にあふれていました。

弓場さんの持山に連れて行っていただきました。

長年使い込まれた鉈(なた)。山に入るときはいつも持ち歩いているそう。

地面を踏みしめると、乾燥した枝葉がパキパキと音を立てます。

軽トラックに乗って、複数の持山を行き来します。