十津川、山の民

山の民の誇りを持ち、十津川村に生きる人々を紹介します。

Vol.12

2020.06.16

50年の経験が物語る職人技。

岩本 清春さん

村で生まれ村に育った山の男。
50年以上、林業を生業としてきた
ベテラン山師。

祖父の代からそこにある仕事、山と向き合い50年。

仕事場に伺うと、ちょうど大きな1本のスギの木を倒すところを見せてくださるとのこと。岩本さんは御年72歳。かれこれ50年以上、林業に携わっていらっしゃいます。十津川村に生まれ、十津川村に育ち、師匠でもあるお父様の背中を見て、山仕事一筋でやってこられた岩本さん。おじいさんの代から数えて、山師は3代目とのこと。造林や伐採の見習い、間伐材を集めて出荷するなど、手広くされており、木を伐り出す仕事について知り尽くしています。
「他にすることがなかった。だから、これしか知らない。楽しいというより、食っていくための仕事」と岩本さん。山仕事は決して特別なことではなく、常に生活とともにあったものなのでしょう。
そんな仕事の中でもやりがいを感じる瞬間を伺うと「木を倒して、うまいこといったら気持ちがいい。山仕事は、木を倒して終わりではない。倒す方向を考えないと、次の仕事が大変になる。一連の動作を見越して、思った方に倒れたら一番いい」とのこと。うまく倒すコツは「山で飯を食うことやな」と仰る岩本さん。山仕事は経験がすべて。少しでも長く山とともにあり、体と五感で覚えていくのです。

目の前にある巨木と対峙するダイナミズム。

「引っ張ってくれ!」
すでに切り込みが入っているスギの巨木。伐り倒す準備が整ったらしく、斜面の上の重機で、岩本さんの仕事仲間の方が、木を手前に引っ張ります。小さく軋む音が鳴り出すのを合図に、安全な場所に避難させてもらい、何メートルあるのかもわからないほど巨大な杉の木がメリメリといいながらゆっくりと傾いていくのを見守っていると、その傾きがだんだんと加速し、バリバリと大きな破裂音を響かせ、巨木が枝葉を揺らして山の斜面に倒れていきました。普通に山道を歩いているだけではおよそ目にすることはできない、高いスギの木のてっぺんが、目の前に横たわっていました。何十年もかけて育った杉の巨木が倒れていく姿を目の当たりにし、そのダイナミックな風景に圧倒されるばかり。
――でっかいなぁ。伐り倒した木そのものも、それを今まで幾度となく繰り返してきた岩本さんの仕事も――そう思っている私たちを尻目に、今度はチェーンソーの音が響き始めます。木は伐り倒して終わりではなく、トラックに載せて運ばなければなりません。余分な枝葉を落として荷台に積める長さに玉切るという作業が続きます。

山の自然と健康である日々、代々の血に感謝しながら。

山仕事で外に出ることも稀にはあるけれど、それ以外は一年中、ずっと村で山仕事に携わっています。仕事場は、少し山に入るだけでも急斜面での作業になります。岩本さんは、72歳とは思えないほどしっかりとした足腰で、地下足袋で地面を踏みしめながら歩かれています。時には道が狭くて車が入れず、徒歩で1時間から1時間半ほどかかる現場仕事もあるそう。
「この仕事は、歩けなくなったら終わりやから。今まで大したけがもなく、骨折もなく、元気で仕事を続けてくることができた。丈夫に産んでくれた親には、本当に感謝している」。
命がけの仕事だという自覚を持ち、安全にも人一倍気を遣って林業一筋でやってきたからこそ、今まで元気に続けてこられたのでしょう。岩本さんの山仕事への姿勢は、まさに「生業」そのものでした。

堂々たるお仕事姿。

使い慣れたチェーンソー。

年季の入った斧には歴史が刻まれています。

仕事仲間との連係プレーも重要です。

倒す前の作業もさまざま。

一度傾けば倒れ込む勢いは止められません。

倒れていても圧巻の巨木。

背中で語る、山の男の生き様。